林 剛さん
昭和43年生まれ。駒ヶ根市出身
果樹と歴史に囲まれて、季節ごとにていねいな暮らし
歴史ある屋号と住宅
私の家は向垣外(むこうがいと)という屋号で、桃井城を守る垣根の向うにある家だからという意味のようです。ほかにも近所には北垣外、南垣外、マセグチといった屋号の家があって、それらは桃井城に関係する屋号だといわれています。
この家の母屋は築何年か分かりませんが、江戸時代の終わりか明治の初めごろの建築ではないかといわれています。土間にはかつて厩(うまや)があって、家紋の入った提灯も残っています。

作物の変遷―桑から梅へ、そして柿へ
私は駒ヶ根市中割の出身で、この家に婿養子に入りました。実家も古い農家で稲作が中心でしたが、こちらでは柿や梅などの果樹栽培がメインです。部奈は基本的に水の便が悪いので、水はけの良い土地を好む果物とか花とかの栽培に適しているんですね。我が家は昭和30年代くらいまでは養蚕をやっていて、まだ養蚕道具が残っています。この家の天井は上に人が乗れるようになっていて、そこでお蚕さまを飼っていたそうです。その後は畑も桑から梨、梅に転換し、今一番多く作っているのは市田柿です。
市田柿、竜峡小梅、食用桜を生産
市田柿は生柿換算で約6トンを収穫しています。柿の栽培で一番大変なのは消毒作業ですが、部奈は比較的平らな地形のため「スピードスプレーヤー(SS)」という機械を使えるので助かっています。部奈よりも東の峠や中山といった地区は斜面が多いのでSSが通れない畑も多いですから。
梅は竜峡小梅という下伊那特産の梅で、12月から1月くらいに剪定をします。剪定の仕方はまんべんなく光が当たるようにすること、枝が上に伸びすぎないようにすることが大切で、やり方は義親から教わりながら覚えました。また、この時期に施肥も行います。3月に花が咲き、5月下旬から6月初旬に収穫します。
うちでは食用の八重桜も生産しています。部奈では20年ほど前から食用桜の生産が始まって、5、6軒がやっています。4月下旬につぼみの状態の花を摘んで集落内の集荷場に出すと、その場で塩漬けになります。桜は消毒も剪定も必要ないので栽培は比較的楽ですが、1,2週間のうちに収穫しなければならないので、そのときは忙しいですね。写真としてもけっこう絵になると思いますよ。
部奈の魅力―残雪の山々と桜
去年の5月初め、姪っ子が結婚写真を撮りにカメラマンと一緒に部奈まで来ました。部奈からの中央アルプスの残雪を背景に撮りたいと思ったようです。残雪夕日に映える山々も部奈の魅力だと思います。
部奈は桜も多いですね。最初に部奈坂のヤマザクラが咲き始めます。おすすめは、前田諏訪神社や第四会所、モトイさん宅の桜など。枝垂れ桜もあります。八重桜は4月後半まで。外の人たちがインターネットで調べてたくさん見に来ます。桜だけでなくコブシもきれいですよ。
自宅近くはゲンジボタルの楽園
6月中旬から7月初めにかけて、我が家の周りではゲンジボタルが飛びます。最初に家の前の水路から、次に庭の池、それから家の横の清水沢(シミンザワ)という順番で飛ぶ場所が広がっていきます。何匹も出るときは、光の点滅が一斉にシンクロするんですよ。地元のケーブルテレビでたびたび紹介されているので、毎年見に来る人もいます。
あまり知られていない季節の美しさでいえば、柿の花はどうでしょう。5月末ころに小さくて白い、かわいい花が咲くんです。見たことがない人が多いと思いますから、新しい発見があると思いますよ。
季節の行事と伝統食を大切に
農作業以外でやっていることといえば、薪づくりでしょうか。うちには薪ストーブが2台あって、お風呂にも薪を使っています。自分の家の山や、地元の里山整備利用促進協議会の活動で出た木をもらってきたりしています。割るとゴトウムシ(カミキリムシの幼虫)やそのほかいろんな虫が出てきますよ。薪割りは時間もかかってけっこう大変ですが、楽しさもありますね。
5月、山椒の若芽が出るころには山椒味噌を作って、土間で五平餅を焼きます。炭はドラム缶で焼いた自家製のものを使います。土間では焼き肉もできますし、とても便利ですね。

お正月の餅は今も自家製ですね。年末は2升半を2臼。かまどとせいろを出してきて餅米を蒸して、昔ながらの木の臼と杵で搗いています。
お正月の門松は昔ながらのものを今も立てています。正月の三が日には囲炉裏に火を入れて、元旦の「歯固め」をはじめ朝の食事をそこで取ります。ふだんはストーブの熱が逃げないように天井の煙抜きを閉めているんですが、炭を使えば煙をあまり出さずにすみますしね。

小正月にも同様に餅を搗いて「稲穂」を作ります。竹の枝に細長い切り餅を挿して稲の穂をかたどったものです。ほかの家は餅を丸くした「繭玉」が多いですね。本来は1月14、15日の行事ですが、いまは地区のどんど焼きが行われる日にあわせています。
私自身、それほど趣味の多い人間ではありませんが、こうした季節ごとの暮らしを楽しんでいます。


